従業員が何人で契約すべき?顧問社労士の必要性と5つのベストタイミング
小規模な企業の社長様とお話しする際、よくいただくご質問があります。それは、「うちはまだ数人の規模だけど、社労士と顧問契約を結ぶ必要があるのか?」というものです。
一般的には「従業員が増えてから」と考えられがちな社労士顧問ですが、実は組織が小さければ小さいほど、専門家のサポートが経営の成否を分ける局面が多々あります。
今回は、2026年現在の労働環境を踏まえ、小規模企業こそ知っておくべき「社労士顧問の本当の必要性」について解説いたします。

この記事の監修者
近藤雅哉
(社会保険労務士 / インプル社労士事務所 代表)
社労士法人で最大35名のマネジメントを経験し、人事コンサルティングに特化した株式会社In-proveを設立。続けてインプル社労士事務所を立ち上げる。人事と労務の両面から中小企業の発展を支えている。
従業員が少なくても「労務リスク」は等しく存在する
「うちは家族経営に近いし、みんな仲が良いからトラブルなんて起きない」 そう仰る社長様こそ、注意が必要です。実は、従業員数が少ない組織ほど、一人の従業員とのトラブルが会社に与えるダメージは相対的に大きくなります。
大企業であれば、一人の離職やトラブルは「組織の一部」の問題で済みますが、5名〜10名規模の会社では、たった一人の未払い残業代請求やハラスメント問題が起きただけで、社長の時間は奪われ、社内の空気は悪化し、最悪の場合は経営そのものが立ち行かなくなるリスクを孕んでいます。
2026年現在、SNSやインターネットを通じて、労働者はかつてないほど簡単に権利に関する情報を手に入れます。「少人数だから、ルールが曖昧でも許される」という時代は、既に過去のものとなっています。
「就業規則は10人から」というルールの罠
小規模の企業が顧問社労士の必要性に直面するタイミングとして多いのが、「就業規則が必要になったとき」ではないでしょうか。
労働基準法では、従業員が10人未満の事業場には就業規則の作成・届出義務はありません。しかし、社労士の視点から申し上げれば、「義務がないこと」と「必要がないこと」は全く別物です。
特に、以下のケースでは、たとえ従業員が1名であっても就業規則(またはそれに準ずる明確なルール)が必要不可欠となります。
- 助成金の受給を検討している場合
中小企業の強い味方である「キャリアアップ助成金」をはじめとする多くの助成金は、申請の前提として、就業規則に然るべき規定が盛り込まれていることが求められます。いざ申請しようとした時にルールが整備されていないと、受給のチャンスを逃してしまいます。 - 従業員に懲戒処分を下す場合
万が一、従業員が問題行動を起こした際、就業規則に根拠となる規定がなければ、法的に有効な懲戒処分を下すことは非常に困難です。「ルールがないのに罰を与える」ことはできないからです。

5つのベストタイミング
1. 従業員を「初めて雇用する」という創業の節目
最も理想的なタイミングは、言うまでもなく「最初の従業員を雇い入れる直前」です。 雇用契約書の内容一つで、将来の労務トラブルのリスクは大きく変わります。また、社会保険や労働保険の新規適用手続きは、創業期の多忙な社長様が自ら行うにはあまりに煩雑で、期限もタイトです。
最初の1人の段階から「法律を守る会社である」という姿勢を明確にすることは、従業員に対する最大の安心供与となり、定着率(リテンション)の向上に直結します。基礎工事がしっかりしていない建物が脆いのと同様に、労務の基礎が整っていない組織は、規模が大きくなった際にもろさを露呈してしまいます。
2. 「10人の壁」を突破し、法定義務が生じる直前
従業員数が10名に達するタイミングは、実務上の大きな転換点です。 労働基準法により、常時10名以上の労働者を使用する事業場には、就業規則の作成と届出が義務付けられます。しかし、10名になってから慌てて作成するのでは、実態に即さない「形だけの規則」になりがちです。
8名、9名と増えてきた段階で、これまでの慣習を明文化し、組織としてのルールを再構築するために顧問社労士を入れるケースは非常に多いです。この「10人の壁」をスムーズに越えられるかどうかが、組織が「属人的な集団」から「システムで動く組織」へ脱皮できるかの分かれ目となります。
3. 労働基準監督署による「調査」の通知が届いた時
経営者の皆様にとって最も避けたい事態の一つが、労働基準監督署や年金事務所による「調査」の通知です。 多くの場合、定期的な調査として行われますが、中には元従業員からの通報がきっかけとなるケースもあります。通知が届いてから慌てて過去の帳簿を整理しようとしても、プロの目から見れば不備は一目瞭然です。
調査の通知が届いたタイミング、あるいは、今の管理体制に不安を感じた瞬間こそが、専門家の介入を求めるべき時です。是正勧告を受けてから対応するのではなく、常に「いつ調査が来ても動じない」体制を顧問社労士と共に作っておくことが、経営者の心の安寧にも繋がります。
4. 助成金の活用を「本格的に検討」し始めた時
国からの助成金は、雇用環境の改善に取り組む企業へのご褒美のような存在ですが、その受給要件は年々複雑化し、審査も厳格になっています。 「良さそうな助成金を見つけたから申請したい」と思っても、過去1年間の出勤簿や賃金台帳に不備があったり、就業規則が最新の法改正に対応していなかったりすれば、その時点で受給の権利を失います。
助成金を戦略的に活用したいと考えたなら、その瞬間に顧問契約を検討すべきです。社労士は、助成金の申請代行だけでなく、その前提となる「受給できるだけの健全な労務体制」を逆算して構築するパートナーだからです。
5. 人事担当者の離職などで「属人化」のリスクに気づいた時
意外と見落とされがちなのが、社内の人事労務担当者が退職するタイミングです。 これまで一人の担当者の頭の中にあった「給与計算のルール」や「手続きの進め方」が、退職と共に失われてしまう。この属人化のリスクは、中小企業にとって深刻です。
後任の採用が難しい時代だからこそ、労務という専門性の高い業務を顧問社労士にアウトソーシングし、社内の仕組みとして標準化しておくことは、究極のリスクヘッジとなります。担当者が辞めても業務が止まらない、そんな強固なバックオフィス体制を構築する機会と捉える経営者は非常に賢明です。
顧問社労士を雇うことで得られる「経営上のメリット」
小規模企業の社長様にとって、最大の経営資源は「社長自身の時間」。社労士と顧問契約を結ぶことは、単なるコストではなく、以下のような投資価値を生み出します。
- 社長の時間を「本業」に取り戻す
頻繁に行われる法改正の確認、毎年の社会保険料率の変更、煩雑な行政手続き。これらを社長自ら、あるいは片手間の事務員が調べて行うのは非効率です。これらを専門家に一任することで、社長は売上を作るための「本来の仕事」に集中できます。 - 法改正への「先回り対応」ができる
2026年も、働き方の多様化に伴う法改正が続いています。気づかないうちに法令違反の状態になっていた、という事態を未然に防ぐ「防波堤」としての役割を果たします。 - 「お金をもらう」ための攻めの提案
自分たちでは気づかないような助成金の受給可能性や、社会保険料の適正化によるコスト削減など、社労士は「会社に利益をもたらすパートナー」としての側面も持っています。
小さな組織こそ「守りの基盤」を
従業員が数名の今だからこそ、しっかりとしたルールの土台を築いておく。そうすることで、将来10名、20名と組織が拡大していった際に、揺るぎない成長を遂げることができます。
「うちの規模で相談してもいいのだろうか?」と迷われる必要はありません。むしろ、小さな頃から共に歩み、会社の文化や社長の想いを理解している顧問社労士がいることは、経営においてこれ以上ない安心材料となります。
インプル社労士事務所では、スタートアップや小規模企業の皆様に寄り添った、柔軟かつ戦略的な顧問サービスを提供しております。手続きの代行はもちろんのこと、社長の「右腕」として、強い組織作りの基盤整備をサポートいたします。

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