【社労士解説】社長1人でも必須の「人事労務手続き」、設立後の実施タイミング
会社設立直後の社長は、事業モデルの構築や資金繰り、顧客開拓といった「攻め」の業務に全神経を注がれていることでしょう。
しかし会社という城を築いてすぐに、避けては通れない「守り」の最重要課題が立ちはだかります。それが、労働保険・社会保険などの新規適用手続きです。
法人の形態をとる以上、たとえ社長お一人の会社であっても、あるいは従業員を雇い入れた瞬間であっても、避けて通れない法的義務が存在します。
そしてこの手続きは後回しにすればするほど、後に大きなリスクへと膨れ上がります。今回は、設立1ヶ月以内の必須業務と、それを怠ったときのリスク、そして専門家へ委ねることで得られる経営上のメリットについて解説します。

この記事の監修者
近藤雅哉
(社会保険労務士 / インプル社労士事務所 代表)
社労士法人で最大35名のマネジメントを経験し、人事コンサルティングに特化した株式会社In-proveを設立。続けてインプル社労士事務所を立ち上げる。人事と労務の両面から中小企業の発展を支えている。
【社長1人でも必須】社会保険(健康保険・厚生年金保険)の新規適用
法人の設立登記が完了してホッとしていてはいけません。社長ご自身に役員報酬を支払うのであれば、従業員の有無にかかわらず、社会保険への加入が法律で義務付けられています。
社長ひとりの会社であっても「強制適用事業所」です。この手続きを怠ると、社長様ご自身が医療機関で保険証を使えないだけでなく、将来受給する年金額にも影響を及ぼします。
- 期限:事実発生から5日以内
- 場所:管轄の年金事務所
「事実発生」とは「社会保険の被保険者となる要件を満たした瞬間」を指しています。
具体的には、会社を設立し、社長ひとりでスタートする場合の事実発生日は、原則として「法人登記が完了し、事業を開始した日」となります。
実務上の話になりますが、はじめから役員報酬を受け取る場合は、履歴事項全部証明書(登記簿謄本)に記載されている「会社設立年月日」を事実発生日として扱うことが一般的です。登記申請をしてから実際に書類が手元に届くまでには数日から1週間程度のタイムラグがありますが、法律上の事実は「登記申請をした日(設立日)」に遡ります。
そのため、登記が完了して謄本が取れるようになった頃には、すでに5日の期限が目前に迫っている、あるいは過ぎているという事態が頻発します。役員報酬を1円でも支払う予定があるならば、登記完了後、即座に動く必要があるのはこのためです。
そして、従業員を初めて雇用するときは「事実」の定義が異なります。ここをあいまいにしていると意図せず法令違反の状態に陥るリスクがあるため注意が必要です。不安なときは必ず社会保険労務士などの専門家に相談してください。
ポイントコラム 事実発生日が大切な理由
日付の把握が重要な理由は、単に書類の期限を守るためだけではありません。事実発生日が1日ずれるだけで、会社が負担すべき保険料や、従業員の給付に大きな影響を及ぼすからです。
保険料の遡及支払いのリスク
事実発生日を誤って遅い日付で届け出たことが後の調査で発覚した場合、本来の事実に遡って保険料を徴収されます。2026年現在、マイナンバーによる情報連携が進んでおり、登記日や雇用実態との矛盾は容易に把握されるようになっています。未加入期間中の事故や病気への対応
事実発生日から手続き完了までの間に、従業員が怪我をしたり病気になったりした場合、保険証が手元にないという事態を招きます。手続きが遅れている期間は、一時的に医療費を全額自己負担しなければならず、従業員に多大な経済的・精神的不安を与えることになります。
2026年現在、社会保険の未加入に対する行政の調査は非常に厳格化しています。初手で正しい手続きを行うことが、経営者のセーフティネットを確保する第一歩となります。

【1人でも雇ったら必須】労災保険(労働者災害補償保険)の成立、概算保険料申告書の手続き
次に、パート・アルバイトを含め「最初の1人」を雇用した瞬間に義務が生じるのが労災保険です。
- 期限:雇用した日の翌日から10日以内(概算保険料申告書は50日以内)
- 場所:管轄の労働基準監督署
労災保険は、業務中や通勤中のケガ、病気、あるいは不幸にも死亡事故が発生した際に労働者を守るためのものです。もし未加入の状態で事故が発生した場合、会社は本来保険から支払われるべき給付額を、「徴収金」として国から直接請求されます。
また、事業主が故意又は重大な過失により労災保険の成立手続を行わない期間中に事故が発生した場合、労災保険給付額の40%~100%が事業主から徴収されます。
このようにリスクの多い項目ですので、雇い入れの開始と同時に手続きを開始しましょう。
【週20時間以上で必須】雇用保険の適用事業所設置届、雇用保険被保険者資格取得届の手続き
3つ目は、従業員が「週20時間以上」働く場合に必要となるハローワークでの手続きです。
- 期限:設置の日の翌日から10日以内(資格取得届は翌月10日まで)
- 場所:管轄の公共職業安定所(ハローワーク)
雇用保険は失業給付だけでなく、育児休業給付や教育訓練給付など、従業員のキャリア継続を支える重要な役割を担います。また、中小企業が活用できる多くの「助成金」は、雇用保険に適正に加入していることが受給の絶対条件となります。

「後でいいだろう」が招く、創業期の致命的なリスク
忙しさを理由にこれら3つの手続きを放置することは、会社にとって「時限爆弾」を抱えることに等しい行為です。
- 数年分の保険料の「遡及支払い」と追徴金
未加入が発覚した場合、最大2年分を遡って請求されるリスクがあります。数百万円単位の突発的な支払いは、創業期の資金繰りを直撃します。 - 優秀な人材の離職と採用力の低下
「保険証が届かない」「雇用保険がない」という事態は、入社直後の従業員に大きな不信感を与えます。2026年の労働市場においてコンプライアンスの欠如は採用力の低下を招きます。 - 助成金・融資のチャンスを逃す
適正な保険加入がない場合、創業融資や各種助成金の審査で門前払いを受けることになります。会社の成長の機会を社長自らが摘み取ってしまうことになりかねません。
社労士事務所の活用:経営者の「時間」を最大化する
これら3つの手続きは、窓口も書類も期限も異なります。
確な書類を揃えて提出する作業はなかなかに煩雑と言えるでしょう。
しかし社労士事務所を活用することで、社長は売上をつくるための「本来の仕事」に100%集中できるようになります。
社会保険労務士なら、単なる書類作成代行にとどまらず、役員報酬の最適化シミュレーションや、将来の助成金活用を見据えた労務基盤の構築までご提案が可能です。将来のトラブルやリスクを回避するためにも、専門家に相談をすることをおすすめします。

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