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【社労士解説】上がり続ける最低賃金、企業が今すべきこと・中長期的にすべきこと

社労士解説
【社労士解説】上がり続ける最低賃金、企業が今すべきこと・中長期的にすべきこと

長らく続いた低成長とデフレ経済からの脱却が叫ばれる中、無視できない経営課題のひとつが「人件費の上昇」、特に「最低賃金の引き上げ」です。

しかし「2020年代に全国平均1,500円」という政府の掲げた目標も、政権交代などの諸事情で明確になっておらず、中小企業の労務担当者には常に最新情報のキャッチアップが求められていきそうです。

ただ、最低賃金が今後下がることはありません。政策目標が出てから慌てるのではなく、今から現実として捉え、その現実にどれだけ早く具体的に備えておけるかが、大切な経営判断となりそうです。

この記事の監修者

近藤雅哉
(社会保険労務士 / インプル社労士事務所 代表)
社労士法人で最大35名のマネジメントを経験し、人事コンサルティングに特化した株式会社In-proveを設立。続けてインプル社労士事務所を立ち上げる。人事と労務の両面から中小企業の発展を支えている。

上がり続ける最低賃金、インプル社労士事務所はどう考える?

世界的なインフレと円安、それに伴う物価高が国民生活を直撃しています。従業員が生活していくために必要不可欠な賃金水準の引き上げは社会的な要請となっており、企業側がこの流れに背を向けることは採用市場からの撤退を意味すると言っても過言ではありません。

しかし社労士としての私は、この最低賃金引き上げの流れを決してネガティブなものと捉えていません。むしろ優秀な人材の確保と経済の活性化のための「先行投資」。未来への布石と考えています。

最低賃金の上昇で実現する4つのこと

最低賃金が上がれば、労働者の生活に安心が生まれます。さらに以下のようなメリットが考えられるでしょう。

1:生活水準の向上と安心の確保(物価高への対応)

働く人々の生活を安定させ、最低限の生活を営める水準を確保することが切実な課題となっているためです。

2:経済の好循環の実現

賃上げを通じて個人消費を喚起し、企業収益の拡大につなげ、それがさらなる賃上げと投資を生むという経済の好循環を実現するためです。

3:人材の確保と定着

深刻な人手不足においては、賃金水準の引き上げが優秀な人材の確保や従業員の意欲向上、および離職率の低下につながると考えられているためです。

4:地域経済の活性化

低い水準にある地域の最低賃金を重点的に引き上げ、地域間の格差を縮小することで地方からの人口流出を防ぎ、地域経済を活性化させる目的もあります。


急な引き上げ、本当に社会のためになるのか?

懸念されているのは、引き上げペースが非常に速いことです。

前政権(石破政権)は2020年代末の2029年度までに1,500円を達成するという目標を掲げましたが、そのためには現在の水準(全国加重平均)から計算すると、年平均で7%台(資料によっては8%)という、過去最高を上回る急速なペースで最低賃金を引き上げ続ける必要があります。

それは中小企業への経営圧迫を生み出し、特に生産性向上や価格転嫁が難しい中小企業や零細企業の経営への影響が大きいでしょう。既に「賃上げは不可能」と回答する企業が約半数に達しているという調査結果もあり、倒産や廃業の増加が懸念されています。その結果、雇用者数の減少や非正規雇用の不安定化など、意図せぬ副作用を引き起こすリスクも否定できません。

政府の支援の流れに乗り、前倒しの対策を

しかしこの動きはもう止まりません。
先回りの対策が必要です。

政府が目標を定めたら、目標達成に向けた強力な政策資源(予算や税制優遇など)が投入される可能性も高いです。政府による賃上げを可能にするための生産性向上支援や、価格転嫁しやすい環境整備を強化することで、企業側の受け入れ態勢も一気に整っていくでしょう。

そして最低賃金の上昇は、目標達成時まで賃金水準を据え置くことを推奨しているわけではありません。厳しい採用競争と物価高が進行する現在、企業が取るべき戦略は、「待つ」ことではなく、「仕掛ける」ことだからです。

前倒しがもたらす具体的メリット

前倒しの賃金水準の引き上げには、企業にとってもメリットがあります。

1:採用競争での圧倒的優位性

競合他社より50円、100円でも高い時給を提示できる企業は、応募者の目には「選ばれる企業」として映ります。最低賃金の目標水準をいち早くクリアすることは、求人広告費以上の効果を発揮する、最も強力な採用ツールとなります。

2:人材の質の向上と定着率の改善

高い賃金は、単に応募者数を増やすだけでなく、より意欲的で高いスキルを持つ人材を引きつけます。「正当に評価されている」と感じた従業員は仕事へのモチベーションを高め、離職率の低下にも直結します。人件費を上げても、採用コストや教育コストの削減、生産性の向上で十分にペイできるのです。

3:企業ブランドの向上

「従業員を大切にする企業」というイメージは、顧客や取引先からの信頼獲得にも寄与します。企業の健全性、そして未来への投資を惜しまない姿勢を示せるでしょう。

インプル社労士事務所でも、最低賃金についてご相談を受けた際は、上がるのをただ待つ「受け身の姿勢」から脱却し「賃金水準で市場をリードする攻めの姿勢」へと転換してはどうでしょうか、というご提案をしています。

企業がすべきこと

それでは具体的なアクションを考えていきましょう。まずは今すぐ取りかかった方がよいことです。

1:緊急対応

目的:人件費上昇のインパクトを把握し、目の前の課題を解決する
期限の目安:2026年3月まで

区分取り組み事例詳細(必要性)
財務計画仮の1,500円想定の人件費シミュレーション1本当に1,500円レベルまで引き上げられた場合の人件費総額を正確に計算し、利益への影響を「見える化」する。(社労士への相談事項)
価格戦略原価計算の見直しと価格転嫁の検討上昇する人件費を織り込み、サービスや製品の適切な価格を再設定する。取引先との価格交渉の準備を始める。
生産性ムダ・ムラの徹底排除と業務効率化現状の業務プロセスから、不必要な作業や非効率な工程を洗い出し、マニュアル化やツール導入による削減に着手する。
採用定着賃上げの前倒し検討競合よりも優位に立つため、最低賃金目標を待たず、採用力の高い水準(例:地域最高水準)への賃上げを検討し、実行に移す。
活用助成金・支援制度の情報収集と活用賃上げや生産性向上、人材育成に関連する助成金(例:業務改善助成金、人材開発支援助成金など)の申請準備を急ぐ。(社労士への相談事項)

現状により、重要性や実現の難易度に差が出るかと思います。一気に進めて失敗するようなことを避けるためにも、一度俯瞰して整理をしてみることをおすすめします。

特に採用定着(賃上げの前倒し検討)の部分では、採用時の時給を上げることにより既存社員と給与額が逆転する可能性があるため、先に既存社員の賃上げに着手する必要が出てきます。社内に人事労務の知見が少ないときは、社会保険労務士にご相談ください。

次は中長期的にやるべきことです。

2:中期戦略

目的:人件費上昇を上回る生産性向上と、付加価値の高い組織基盤を構築する
期限の目安:2029年度末(目標達成まで)

区分取り組み事例詳細(必要性)
人材戦略成果・貢献度に基づく評価・賃金制度構築単に時給を上げるだけでなく、従業員の能力、スキル、貢献度が正しく反映される公平性の高い賃金・評価制度へ抜本的に見直す。
生産性IT・DX推進への戦略的投資投資定型業務の自動化(RPA導入など)やクラウドツール、AIの導入を進め、一人当たりの生産性(付加価値)を向上させる。
組織開発人材育成・多能工化の強化賃金アップに見合うスキルを従業員に持たせるため、計画的な教育プログラムを実施。一人で複数の業務をこなせる多能工化を進める。
ビジネス高付加価値ビジネスモデルへの転換低価格競争から脱却し、専門性や独自性の高いサービスを提供することで、顧客単価と利益率を向上させる。
労働条件柔軟な働き方の導入時短勤務、リモートワークなど、多様な働き方を提供し、優秀な人材の定着を図るとともに、採用の間口を広げる。

中でも、月給者と時給者の計算についてはある程度の専門知識が必要です。月給者と時給者のばらつきを避けるためにも、専門家にご相談ください。


社労士事務所の活用:人件費上昇を成長のエンジンに変えるために

最低賃金上昇への先回り対策で、社労士事務所ができる具体的な支援は主に以下になります。

リアルな人件費シミュレーションの作成

最低賃金の上昇が、貴社の賃金総額、社会保険料、労働保険料といった全費用に与える影響を、具体的なデータに基づいて正確に予測します。「いくらまでなら賃上げできるか」「賃上げによって利益がどれだけ圧迫されるか」を事前に把握でき、経営の意思決定に確信が持てます。

最適な賃金制度・評価制度の構築

単に最低賃金をクリアするだけでなく、貢献度に応じた公平な評価と、納得度の高い賃金制度を設計します。

・競合他社等と比較したときの優位性が上がるような採用時の賃金を検討
・社内との逆転が生じないよう、社内の賃金制度の見直しも実施

これらは、法律だけではなくさまざまな企業の事例やトラブル例を知り尽くした専門家だからこそ、適切なアドバイスができる領域でもあります。あわせて以下のような支援も可能です。

・等級制度や評価制度の見直しで、従業員のやる気とスキルアップを促す仕組みを構築します
・パート・アルバイトの戦力化を進めるための正社員登用制度や能力給制度を導入し、優秀な人材の定着を図ります。
・「昇給の根拠」を明確化し、従業員エンゲージメントの向上に貢献します。

各種助成金の活用サポート

賃金制度の整備、人材育成、業務効率化など、賃上げに関連して活用できる各種助成金は多数存在します。これらの複雑な制度を活用することで、実質的なコスト負担を軽減し、戦略的な投資を支援します。

プロのアドバイス、受けてみませんか?

賃金制度の構築は、会社の根幹を成す経営戦略です。専門家である社労士の知見を活用し、「賃金アップ=コスト増」ではなく、「戦略的な投資=生産性向上」という等式を成り立たせる制度設計を実現しましょう。インプル社労士事務所に一度ご相談ください。

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