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【社労士解説】雇用保険「週10時間」へ加入ライン引き下げ。セーフティネット強化の裏で企業が直面する課題とは

社労士解説
【社労士解説】雇用保険「週10時間」へ加入ライン引き下げ。セーフティネット強化の裏で企業が直面する課題とは

短時間労働者に対する社会保険の適用拡大が話題ですが、もうひとつ、企業経営と人事戦略に大きな影響を与える重要な改正が控えています。それが雇用保険の適用拡大です。

2028年10月より、雇用保険の加入要件である週の労働時間が「20時間以上」から「10時間以上」に引き下げられる見通しです。この改正には多様化する働き方を支えるセーフティネットの強化という明確な目的がありますが、同時に企業側には新たなコスト負担と管理体制の構築を求めます。

今回は、この改正の意義と、社労士として見える「期待」と「懸念」、そして企業が今すぐ取るべき戦略について解説します。

この記事の監修者

近藤雅哉
(社会保険労務士 / インプル社労士事務所 代表)
社労士法人で最大35名のマネジメントを経験し、人事コンサルティングに特化した株式会社In-proveを設立。続けてインプル社労士事務所を立ち上げる。人事と労務の両面から中小企業の発展を支えている。


改正の背景にあるのは、多様な働き方を支える「セーフティネット」の構築

今回の雇用保険の加入要件引き下げは、主に以下の2つの大きな目的を持っています。

社会保険労務士としては、今回の週10時間への加入要件引き下げには基本的に賛成の立場です。

雇用保険は労働者が支払う保険料の負担額に比べて、受けられる恩恵(給付)が非常に大きいのが特徴です。特に育児休業給付金や教育訓練給付金は、短時間労働者のキャリア継続やスキルアップに直結します。

これまでセーフティネットの対象外だったパート・アルバイトの方が、週10時間以上働くことでこの恩恵を受けられるようになることは、労働者にとって大きなメリットであり、結果的に「安心感のある職場」をつくる後押しになります。

企業が直面する課題は、「還元原資」の減少

しかし、社会保険の適用拡大の記事でお伝えしたのと同様に、この改正が企業経営にもたらす影響として以下の懸念を抱いています。

それは、「会社負担の増加が、従業員への還元原資を圧迫する」可能性です。

雇用保険料は、企業と労働者が折半して負担する社会保険料とは異なり、会社側の負担割合が大きいのが特徴です。週10時間以上働く従業員が増えるほど、企業が負担する雇用保険料の総額は確実に増加します。

この法定福利費の増加は、企業が本来、賃上げや賞与、福利厚生などに回すことができた「還元できる原資」を減少させます。これは、人件費の上昇を上回る生産性向上や価格転嫁が実現できていない企業にとって、看過できない課題となります。


対策を打たずに放置したときの、3つのリスク

週10時間への引き下げに対して対策を打たずに放置することは、以下のリスクを招きます。

  1. 突然のコスト増加と予算の狂い
    2028年10月以降、意図せず雇用保険の加入対象となる従業員が突発的に発生し、事前の試算がないまま法定福利費が増加することで、予期せぬ予算超過を招きます。
  2. 管理業務の複雑化と手続き漏れ
    10時間という細かいラインでの管理が必要になり、週20時間未満で働く従業員の勤怠管理・労働時間見込みの判断がさらに複雑になります。手続き漏れは法令違反につながり、行政指導や信用失墜のリスクを伴います。
  3. 手続き工数の増加
    加入ラインが週10時間以上になるということは、事実上ほとんどの従業員に加入義務が発生するということです。そのため入退社時のたびに手続きが必要になり、事務工数の増加も予測できます。またケースごとに判断が必要なことも増えるため、専門知識が必要になります。

社労士としては、会社のコスト増はもちろんのこと、多くの会社で雇用保険の手続きに関する課題が大きくなるのではないかと予測しています。

ここからは、上記のリスクを回避するための対応策を解説します。お読みいただき、内製化するか、社労士事務所に依頼を検討するかを判断ください。

2028年10月に向け今からできる、3フェーズごとの先行対応策

雇用保険の加入ライン引き下げは、3年後の「ある日」に突然始まるわけではありません。今すぐ計画的に準備を始めることで、コスト増を上回るメリットに変えることができます。

フェーズ 1:緊急対応(〜2026年後半)

最初の1年間は、コスト増の影響を「見える化」し、管理の基盤を整備する期間です。

◆人件費増加のインパクト資産(最重要)

現在、週10時間以上20時間未満で働く従業員(パート・アルバイトなど)の人数を特定し、彼らが2028年10月以降に雇用保険に加入した場合の会社負担額の総額をシミュレーションします。

  • 試算項目
    現行の雇用保険料率(会社負担分)を適用した場合の、月額・年額の追加コスト。
  • 目的
    この増加分を吸収するために、どの程度の生産性向上や価格転嫁が必要かを経営層で共有します。

◆勤怠管理システムの再確認と改修計画 

週10時間という新たなラインは、これまでの「20時間」や「30時間」よりも管理がシビアになります。

  • 現状分析
    現在の勤怠管理システムやシフト管理方法が、「週10時間」のラインを正確に、かつリアルタイムで把握できるか確認します。
  • 改修計画
    10時間を超えそうな従業員に対し、現場の管理者が事前にアラートを受け取れるようなシステムの改修・導入計画を策定します。

◆従業員の意向調査と分類

短時間労働者の間で、今後の働き方に関する意向が二極化することを防ぐため、早期に意向を把握します。

  • 調査内容
    「10時間以上働く意向があるか」「雇用保険の恩恵(給付など)を知っているか」「雇用保険料負担による手取りの減少をどう考えるか」などをアンケートや面談で把握。
  • 分類
    意向に基づき「10時間未満厳守層」「10時間以上働きたい層」に分類し、今後の人事戦略の基礎データとします。

フェーズ 2:中期戦略(〜2027年後半)

この期間は、コスト増加を吸収し、人材定着力を高めるための「仕組み」を構築します。

◆雇用契約書、就業規則の段階的な改定準備

法令改正に合わせた書式の改定を事前に準備します。

  • 目的
    2028年10月以降の「週10時間以上」の労働契約を結ぶ際の雇用保険加入義務について明記し、従業員との間の認識のズレを防ぎます。
  • 改定範囲
    雇用保険の加入条件、保険料負担に関する説明、労働時間に関する管理規定など。

◆短時間労働者向けスキルアップ制度の強化と周知

雇用保険のメリットである「人への投資」を企業側からも積極的に活用します。

  • 戦略
    従業員が雇用保険に加入することで得られる教育訓練給付金を活用しやすいよう、社内研修や資格取得支援制度を整備・強化します。
  • 目的
    「保険料負担増=手取り減」というネガティブな印象を、「手厚い研修やキャリアアップの機会」というポジティブな価値提供で上回ります。

◆生産性向上のためのタスク分析とRPA / IT活用

増加する固定費を、従業員一人当たりの付加価値向上で相殺します。

  • タスク分析
    短時間労働者が行っている業務のうち、自動化(RPA)やITツールで代替可能なルーティンタスクを洗い出します。
  • 投資実行
    効率化の投資を今から実行し、2028年までに「コスト増<生産性向上効果」のバランスを実現させます。

フェーズ 3:施行直前対応(〜2028年10月)

いよいよ最終段階。ここでは社内への周知徹底と、新制度への切り替えを円滑に進めます。

◆マネジメント層への徹底研修

現場でシフト管理を行う管理職が、新しいルールを正確に理解することが不可欠です。

  • 研修内容
    「週10時間」の判断基準、意図的な労働時間調整の禁止、雇用保険加入に伴う従業員からの質問への適切な回答方法など。
  • 目的
    現場での混乱や、管理者による不適切な指導を防ぎます。

◆全短時間労働者への制度説明会の実施

法改正の目的(セーフティネット強化)と、会社側の対応、従業員の手取りへの影響を透明性をもって伝えます。

  • 説明事項
    雇用保険料の負担額、加入によって得られる給付金の種類(失業、育児、介護)、そして新しい労働時間管理のルール。
  • 目的
    従業員の納得度を高め、不満や離職を未然に防ぎます。

このように優先順位を決めて進めていけば、3年後に慌てて対策をすることはなくなります。この雇用保険の適用拡大を乗り切り、企業の成長につなげるためには、単なる手続きではない「戦略的なルール整備」を視野に入れる必要があります。

社労士事務所でできる、攻めと守りのルール整備

自社内での対応が難しいときは、社労士事務所を活用ください。

  • 人件費影響の正確なシミュレーション
    週10時間以上で働く全従業員を対象とした場合の、2028年10月以降の企業負担額の正確な予測と、利益への影響の「見える化」
  • 「週10時間」を基準とした労働時間管理ルールの策定
    労働時間見込みの判断基準、シフト作成時の運用ルール、勤怠管理システムへの落とし込みなど、現場で混乱が起きないための体制整備。
  • 雇用契約書・就業規則の改定
    新たな雇用保険の加入要件に対応した、短時間労働者用の雇用契約書および賃金規程等の整備。
  • 煩雑な加入・喪失手続きの代行

雇用保険は、社会保険と違い適用拡大のスケジュールが確定しています。この猶予期間を最大限に活用し、コスト増を人材定着というメリットに変えるための対策を、今すぐ始めましょう。

プロのアドバイス、受けてみませんか?

週10時間という新たなラインを基準として、経営計画と人材戦略に合致した「攻め」と「守り」のルール構築を法律に沿わせながらお手伝いできるのは、社労士だけです。リソース配分からお手続きまで、総合的なご提案も可能です。インプル社労士事務所に一度ご相談ください。

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